GROW UP MAGAZINE
経営財務
作成日: 2026.07.01
更新日: 2026.07.13
価格交渉は9割超、それでも転嫁率は54.2% 中小企業が利益を守るために必要な「根拠ある値上げ交渉」とは
2026年6月26日、中小企業庁から「価格交渉促進月間(2026年3月)」のフォローアップ調査結果が公表されました。
今回の調査には約7万社が回答しており、中小企業の価格交渉や価格転嫁の実態を把握するうえで、非常に重要な内容となっています。
調査結果によると、価格交渉が行われた企業の割合は90.7%に達しました。
一方で、実際にコスト上昇分を価格へ転嫁できた割合は平均54.2%にとどまっています。
つまり、多くの企業が価格交渉のテーブルには着いているものの、上昇したコストの半分近くを自社で負担している状況です。
本記事では、今回の調査結果から見える中小企業の課題と、価格転嫁を成功させるためのポイントを解説します。
価格交渉は「特別なこと」ではなくなった
まず、価格交渉そのものは着実に浸透しています。
今回の調査では、価格交渉が行われた割合は90.7%となり、前回調査の89.4%から上昇しました。
一方、価格交渉が行われなかった割合は9.3%で、前回の10.6%から減少しています。
これまでのように、
「取引先に値上げの話を切り出しにくい」
という状況から、
「コストが上がれば価格交渉を行う」
という考え方が定着しつつあります。
しかし、重要なのは価格交渉をしたかどうかではありません。
実際にどこまで価格へ反映できたかが、企業の利益を左右します。
実際の価格転嫁率は平均54.2%
今回の調査では、コスト上昇分の価格転嫁率は平均54.2%でした。
これは、100万円のコスト上昇があった場合、価格へ転嫁できたのは平均54万2,000円であり、残りの45万8,000円は企業側が負担していることを意味します。
売上が変わらなくても、
原材料費
人件費
電気代
燃料費
物流費
などが増加すれば、利益は確実に減少します。
価格転嫁できなかったコストは、そのまま営業利益や資金繰りを圧迫します。
転嫁しやすい原材料費、難しい労務費・エネルギー費
コストの種類別に見ると、価格転嫁率には明確な差があります。
原材料費の転嫁率は55.7%でした。
一方、労務費は50.0%、エネルギー費は48.9%にとどまりました。
原材料費は、仕入先からの値上げ通知や請求書など、価格上昇を示す資料が分かりやすいため、取引先へ説明しやすい傾向があります。
これに対して、労務費やエネルギー費は、
「それは受注企業側の経営努力で吸収すべきではないか」
と見られやすく、価格転嫁が後回しになるケースがあります。
しかし、最低賃金や社会保険料、電気料金などは、企業努力だけで抑えられるものではありません。
特に賃上げ分を販売価格へ反映できなければ、賃上げを行うほど企業の利益が減少するという矛盾が生じます。
下請け階層が深くなるほど転嫁率は下がる
今回の調査では、取引階層による価格転嫁率の違いも明らかになりました。
1次請けの転嫁率は55.2%、2次請けは54.2%でした。
さらに、3次請けでは50.2%、4次請け以上では45.5%まで低下しています。
元請企業から離れ、下請け階層が深くなるほど、価格転嫁が難しくなる傾向が見られます。
特に4次請け以上では、「全く転嫁できなかった」または「価格を減額された」と回答した企業が2割を超えています。
取引の末端に近い企業ほど、原材料費や人件費の上昇を自社で抱え込んでいる構造です。
2026年施行の「取適法」が価格交渉の後ろ盾に
価格交渉を行ううえで、中小企業が知っておきたいのが「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」です。
取適法では、発注者による一方的な価格決定や、価格協議に応じない行為などが規制されています。
主なポイントとして、次のような内容があります。
価格協議に応じず、一方的に取引価格を決めることの禁止
価格決定に必要な説明や情報提供を行わないことの禁止
支払期日を給付受領日から60日以内とすること
手形払いの見直し
振込手数料を発注者側が負担すること
今回の調査でも、支払条件には改善が見られます。
代金を全額現金で支払う企業の割合は87.5%となり、前回の82.2%から上昇しました。
また、振込手数料を受注者側が負担している割合は18.9%となり、前回の29.9%から大きく減少しています。
これまで慣行として受注企業が負担していたコストについても、見直しが進んでいます。
価格転嫁に成功する企業は「数字」で説明している
今回の調査に寄せられた企業の声を見ると、価格転嫁に成功している企業には共通点があります。
それは、値上げの必要性を客観的な資料で説明していることです。
例えば、
原材料の仕入価格が前年から何%上昇したか
最低賃金の改定によって人件費がいくら増えたか
電気料金が年間でいくら増加したか
物流費が1件当たりいくら上昇したか
といった数字を示しています。
一方で、
「経営が苦しい」
「赤字になっている」
といった感情的な説明だけでは、取引先を納得させることは難しくなります。
価格交渉では、企業の苦しさを訴えるのではなく、
「何が、いつから、いくら上がったのか」
を明確に伝えることが重要です。
価格交渉に向けて準備したい3つのこと
1.コスト上昇を項目別に見える化する
まずは、原材料費、労務費、エネルギー費、物流費などを分けて整理しましょう。
前年同期と比較し、金額や上昇率を一覧にすることで、価格交渉の根拠資料になります。
単に総コストが増えたと説明するよりも、項目ごとに整理した方が説得力は高まります。
2.労務費の上昇分も正当に請求する
賃上げや最低賃金の上昇分は、企業が単独で負担すべきものではありません。
政府が示している「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」などを参考に、労務費の上昇分も価格へ反映することが重要です。
特に、労務費は原材料費より転嫁率が低いため、意識的に交渉項目へ加える必要があります。
3.取適法の内容を理解する
価格交渉を申し入れたにもかかわらず、十分な協議をせずに価格を据え置くことや、一方的に価格を決定することは問題となる可能性があります。
取適法の内容を理解しておくことで、自社が不利な条件を受け入れていないかを判断しやすくなります。
法律を相手に突きつけるというよりも、適正な取引条件を求める根拠として活用することが大切です。
値上げ交渉は利益だけでなく事業継続の問題
価格交渉というと、
「利益を増やすための値上げ」
という印象を持たれることがあります。
しかし現在の価格転嫁は、利益を増やすためというよりも、上昇したコストを適正に回収し、事業を継続するための取り組みです。
価格転嫁できなければ、
賃上げができない
人材を採用できない
設備投資ができない
借入金を返済できない
事業承継が難しくなる
といった問題につながります。
取引先との関係を守るためにも、無理な価格で受注を続けるのではなく、持続可能な取引条件を双方で話し合う必要があります。
まとめ
今回の調査では、価格交渉を行った企業の割合は90.7%に達しました。
しかし、実際の価格転嫁率は平均54.2%にとどまり、コスト上昇分の半分近くを中小企業が負担しています。
特に転嫁が難しいのは、労務費とエネルギー費です。
また、取引階層が深くなるほど価格転嫁率は低下しており、下請け企業ほど厳しい状況に置かれています。
価格転嫁を成功させるためには、
コスト上昇を数字で把握する
客観的な資料を準備する
労務費も含めて交渉する
取適法や国の指針を理解する
ことが重要です。
価格交渉は、すでに特別な行為ではありません。
今後は「交渉したかどうか」ではなく、「根拠を示し、どこまで適正価格を実現できたか」が企業間の差になります。
自社の利益と雇用を守るためにも、まずはコスト上昇の見える化から始めてみてはいかがでしょうか。
今回の調査には約7万社が回答しており、中小企業の価格交渉や価格転嫁の実態を把握するうえで、非常に重要な内容となっています。
調査結果によると、価格交渉が行われた企業の割合は90.7%に達しました。
一方で、実際にコスト上昇分を価格へ転嫁できた割合は平均54.2%にとどまっています。
つまり、多くの企業が価格交渉のテーブルには着いているものの、上昇したコストの半分近くを自社で負担している状況です。
本記事では、今回の調査結果から見える中小企業の課題と、価格転嫁を成功させるためのポイントを解説します。
価格交渉は「特別なこと」ではなくなった
まず、価格交渉そのものは着実に浸透しています。
今回の調査では、価格交渉が行われた割合は90.7%となり、前回調査の89.4%から上昇しました。
一方、価格交渉が行われなかった割合は9.3%で、前回の10.6%から減少しています。
これまでのように、
「取引先に値上げの話を切り出しにくい」
という状況から、
「コストが上がれば価格交渉を行う」
という考え方が定着しつつあります。
しかし、重要なのは価格交渉をしたかどうかではありません。
実際にどこまで価格へ反映できたかが、企業の利益を左右します。
実際の価格転嫁率は平均54.2%
今回の調査では、コスト上昇分の価格転嫁率は平均54.2%でした。
これは、100万円のコスト上昇があった場合、価格へ転嫁できたのは平均54万2,000円であり、残りの45万8,000円は企業側が負担していることを意味します。
売上が変わらなくても、
原材料費
人件費
電気代
燃料費
物流費
などが増加すれば、利益は確実に減少します。
価格転嫁できなかったコストは、そのまま営業利益や資金繰りを圧迫します。
転嫁しやすい原材料費、難しい労務費・エネルギー費
コストの種類別に見ると、価格転嫁率には明確な差があります。
原材料費の転嫁率は55.7%でした。
一方、労務費は50.0%、エネルギー費は48.9%にとどまりました。
原材料費は、仕入先からの値上げ通知や請求書など、価格上昇を示す資料が分かりやすいため、取引先へ説明しやすい傾向があります。
これに対して、労務費やエネルギー費は、
「それは受注企業側の経営努力で吸収すべきではないか」
と見られやすく、価格転嫁が後回しになるケースがあります。
しかし、最低賃金や社会保険料、電気料金などは、企業努力だけで抑えられるものではありません。
特に賃上げ分を販売価格へ反映できなければ、賃上げを行うほど企業の利益が減少するという矛盾が生じます。
下請け階層が深くなるほど転嫁率は下がる
今回の調査では、取引階層による価格転嫁率の違いも明らかになりました。
1次請けの転嫁率は55.2%、2次請けは54.2%でした。
さらに、3次請けでは50.2%、4次請け以上では45.5%まで低下しています。
元請企業から離れ、下請け階層が深くなるほど、価格転嫁が難しくなる傾向が見られます。
特に4次請け以上では、「全く転嫁できなかった」または「価格を減額された」と回答した企業が2割を超えています。
取引の末端に近い企業ほど、原材料費や人件費の上昇を自社で抱え込んでいる構造です。
2026年施行の「取適法」が価格交渉の後ろ盾に
価格交渉を行ううえで、中小企業が知っておきたいのが「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」です。
取適法では、発注者による一方的な価格決定や、価格協議に応じない行為などが規制されています。
主なポイントとして、次のような内容があります。
価格協議に応じず、一方的に取引価格を決めることの禁止
価格決定に必要な説明や情報提供を行わないことの禁止
支払期日を給付受領日から60日以内とすること
手形払いの見直し
振込手数料を発注者側が負担すること
今回の調査でも、支払条件には改善が見られます。
代金を全額現金で支払う企業の割合は87.5%となり、前回の82.2%から上昇しました。
また、振込手数料を受注者側が負担している割合は18.9%となり、前回の29.9%から大きく減少しています。
これまで慣行として受注企業が負担していたコストについても、見直しが進んでいます。
価格転嫁に成功する企業は「数字」で説明している
今回の調査に寄せられた企業の声を見ると、価格転嫁に成功している企業には共通点があります。
それは、値上げの必要性を客観的な資料で説明していることです。
例えば、
原材料の仕入価格が前年から何%上昇したか
最低賃金の改定によって人件費がいくら増えたか
電気料金が年間でいくら増加したか
物流費が1件当たりいくら上昇したか
といった数字を示しています。
一方で、
「経営が苦しい」
「赤字になっている」
といった感情的な説明だけでは、取引先を納得させることは難しくなります。
価格交渉では、企業の苦しさを訴えるのではなく、
「何が、いつから、いくら上がったのか」
を明確に伝えることが重要です。
価格交渉に向けて準備したい3つのこと
1.コスト上昇を項目別に見える化する
まずは、原材料費、労務費、エネルギー費、物流費などを分けて整理しましょう。
前年同期と比較し、金額や上昇率を一覧にすることで、価格交渉の根拠資料になります。
単に総コストが増えたと説明するよりも、項目ごとに整理した方が説得力は高まります。
2.労務費の上昇分も正当に請求する
賃上げや最低賃金の上昇分は、企業が単独で負担すべきものではありません。
政府が示している「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」などを参考に、労務費の上昇分も価格へ反映することが重要です。
特に、労務費は原材料費より転嫁率が低いため、意識的に交渉項目へ加える必要があります。
3.取適法の内容を理解する
価格交渉を申し入れたにもかかわらず、十分な協議をせずに価格を据え置くことや、一方的に価格を決定することは問題となる可能性があります。
取適法の内容を理解しておくことで、自社が不利な条件を受け入れていないかを判断しやすくなります。
法律を相手に突きつけるというよりも、適正な取引条件を求める根拠として活用することが大切です。
値上げ交渉は利益だけでなく事業継続の問題
価格交渉というと、
「利益を増やすための値上げ」
という印象を持たれることがあります。
しかし現在の価格転嫁は、利益を増やすためというよりも、上昇したコストを適正に回収し、事業を継続するための取り組みです。
価格転嫁できなければ、
賃上げができない
人材を採用できない
設備投資ができない
借入金を返済できない
事業承継が難しくなる
といった問題につながります。
取引先との関係を守るためにも、無理な価格で受注を続けるのではなく、持続可能な取引条件を双方で話し合う必要があります。
まとめ
今回の調査では、価格交渉を行った企業の割合は90.7%に達しました。
しかし、実際の価格転嫁率は平均54.2%にとどまり、コスト上昇分の半分近くを中小企業が負担しています。
特に転嫁が難しいのは、労務費とエネルギー費です。
また、取引階層が深くなるほど価格転嫁率は低下しており、下請け企業ほど厳しい状況に置かれています。
価格転嫁を成功させるためには、
コスト上昇を数字で把握する
客観的な資料を準備する
労務費も含めて交渉する
取適法や国の指針を理解する
ことが重要です。
価格交渉は、すでに特別な行為ではありません。
今後は「交渉したかどうか」ではなく、「根拠を示し、どこまで適正価格を実現できたか」が企業間の差になります。
自社の利益と雇用を守るためにも、まずはコスト上昇の見える化から始めてみてはいかがでしょうか。