GROW UP MAGAZINE
経営財務
作成日: 2026.07.07
更新日: 2026.07.13
下請法から「取適法」へ|広告業界への71件の指導から学ぶ発注・受注の注意点
2026年1月1日、これまでの「下請法」は「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」へと改正されました。
今回の改正は、単に法律の名称が変わっただけではありません。
規制の対象や禁止行為が追加され、発注者と受注者の取引を、より適正なものにするためのルールが強化されています。
2026年6月29日には、公正取引委員会と中小企業庁が、広告業界を対象に実施した集中調査の結果を公表しました。
その結果、広告会社に対して71件の指導が行われています。
今回の調査対象は広告業界でしたが、取適法は製造業、建設業、運送業、システム開発、デザイン、動画制作など、さまざまな業種の委託取引に関係します。
発注する企業は、知らないうちに違反していないかを確認する必要があります。
一方、受注する中小企業にとっては、不当な取引条件から自社を守るために知っておきたい法律です。
取適法とは?
取適法は、発注者と受注者の取引を適正化し、立場の弱い中小の受注事業者を不当な扱いから守るための法律です。
法律上、発注する側は「委託事業者」、受注する側は「中小受託事業者」と呼ばれます。
対象となる取引では、発注者に対して主に次のような義務が課されます。
発注内容を書面や電子データで明示する
取引に関する書類を作成し、保存する
受領日から原則60日以内に代金を支払う
不当な減額や買いたたきを行わない
受注者に責任がないのに、無償でやり直しをさせない
「長年この方法で取引している」「業界では一般的な慣習である」という理由だけでは、問題のある取引を正当化できません。
広告業界への集中調査で71件の指導
公正取引委員会と中小企業庁は、2026年2月から広告業界における取適法違反の疑いがある取引について、集中調査を実施しました。
調査対象となったのは、新聞、雑誌、テレビ、インターネット、交通広告、屋外広告などに関する制作委託です。
一般的な広告取引では、広告主から依頼を受けた広告会社が、デザイン会社、映像制作会社、印刷会社などへ業務を委託します。
こうした多層的な取引構造の中で、口頭発注や支払遅延、無償修正などの問題が発生していました。
問題となった行為① 発注内容を書面で示さない
取適法の対象となる取引では、発注時に取引条件を明示する必要があります。
しかし、広告業界では「口頭で発注するのが慣習」という理由で、発注書を交付していないケースが確認されました。
問題となるのは、次のような取引です。
電話や口頭だけで制作を依頼する
金額を決めずに作業を開始させる
納期や修正回数を明確にしない
著作権の帰属を決めない
作業開始後に発注書を発行する
発注日を実際より前の日付にして書類を作る
発注書には、業務内容、納期、代金、支払期日、支払方法などを記載する必要があります。
制作や開発を伴う取引では、修正範囲や知的財産権の取扱いも明確にしておくことが大切です。
問題となった行為② 受領から60日を超える支払い
取適法では、発注者は給付を受けた日から60日以内のできるだけ短い期間内に、支払期日を定めなければなりません。
例えば、「月末締め・翌々月末払い」という条件では、納品日によって60日を超える可能性があります。
また、請求書の提出が遅れたことを理由に支払いを翌月へ回したとしても、原則として受領日から60日以内という基準は変わりません。
自社の締日と支払日だけではなく、実際の納品日から支払日までの日数を確認する必要があります。
問題となった行為③ 無償で修正ややり直しをさせる
広告やデザイン、動画制作では、一定の修正が発生すること自体は珍しくありません。
しかし、当初の発注内容を超える変更や、発注者側の都合によるやり直しを無償で求めると、取適法上の問題になる可能性があります。
例えば、次のようなケースです。
当初と異なる内容への大幅変更を無償で依頼する
修正回数を決めず、何度もやり直しを求める
発注後に案件を取り消し、それまでの作業費を支払わない
発注者の確認不足による修正を受注者に負担させる
短納期での再制作を追加料金なしで求める
発注時に、基本料金に含まれる修正回数や、追加料金が発生する条件を明確にしておくことが重要です。
問題となった行為④ 知的財産権の無償譲渡
広告制作、システム開発、デザイン、動画制作などでは、著作権をはじめとする知的財産権が発生します。
しかし、発注金額に知的財産権の譲渡対価が含まれていないにもかかわらず、受注者へ権利の無償譲渡を求めるケースがあります。
また、コンペに参加した企業へ試作品やデザイン案を無償で制作させ、不採用となったことを理由に費用を支払わない取引も問題となり得ます。
著作権を発注者へ譲渡する場合には、その範囲と対価を契約書や発注書で明確にする必要があります。
改正で禁止された「手形払い」
取適法では、中小受託事業者への代金を手形で支払うことが禁止されました。
また、手形の代わりに電子記録債権やファクタリングを利用していても、支払期日までに手数料を含む代金の満額を現金として受け取ることが困難な支払方法は認められません。
「紙の手形を電子化したから問題ない」ということではありません。
受注者が期日までに代金の満額を受け取れるかどうかが重要です。
振込手数料を受注者に負担させることも禁止
代金を銀行振込で支払う際に、振込手数料を差し引いて入金する慣行も見直す必要があります。
取適法では、振込手数料を中小受託事業者へ負担させることは、代金の減額として禁止されています。
これは、受注者との間で事前に合意していた場合も同様です。
数百円の手数料でも、代金から差し引けば問題となる可能性があります。
経理システムや振込データの設定に、手数料を相手負担とする処理が残っていないか確認しておきましょう。
広告業界だけの問題ではない
今回、集中調査の対象となったのは広告業界ですが、問題となった行為は他の業種でも起こり得ます。
例えば、次のような取引です。
製造業者への部品加工の委託
運送会社への配送業務の委託
システム会社への開発委託
デザイン会社への制作委託
清掃会社やメンテナンス会社への業務委託
フリーランスへの動画・記事制作の委託
行政は、自動車、物流、映像制作など、さまざまな業界の取引実態を確認しています。
「自社の業界は対象にならない」と考えるのではなく、発注または受注を行っている企業は、自社の取引条件を確認する必要があります。
発注する企業が確認したいポイント
発注側の企業は、次の点を確認してみましょう。
発注時に書面を交付しているか
業務内容、代金、納期、支払期日、支払方法などを、作業開始前に明示しているかを確認します。
60日以内に支払っているか
締日基準ではなく、実際の納品日や受領日から支払日までの日数を確認しましょう。
手形などを使用していないか
紙の手形だけでなく、期日までに満額を現金化できない電子記録債権なども確認が必要です。
振込手数料を差し引いていないか
経理上の設定や取引基本契約書に、受注者負担の記載が残っていないかを確認します。
追加作業を無償で求めていないか
仕様変更、追加修正、短納期対応などについて、適切な追加費用を支払っているか見直しましょう。
受注する企業も泣き寝入りする必要はない
取適法は、受注する中小企業が不当な取引から自社を守るための法律でもあります。
次のような取引に心当たりがある場合は、取引条件を確認する必要があります。
発注書を交付してもらえない
代金から一方的に金額を差し引かれる
振込手数料を負担させられている
値上げを申し出ても協議してもらえない
発注後の変更や修正を無償で求められる
著作権を無償で譲渡させられる
受領後60日を超えても代金が支払われない
問題を感じた場合は、記録を残しておくことが重要です。
発注書、契約書、メール、チャット、見積書、請求書、修正指示などを保存しておきましょう。
公正取引委員会、中小企業庁、取引かけこみ寺などの相談窓口を利用することも選択肢となります。
今から取り組みたい3つの対策
1.契約書・発注書を見直す
発注内容、数量、金額、納期、支払条件、修正条件、知的財産権の取扱いが明確になっているか確認しましょう。
口頭発注が残っている場合は、メールや発注システムを含めて書面化する必要があります。
2.支払条件と経理処理を確認する
受領から60日以内に支払っているか、手形や問題のある電子記録債権を使っていないか、振込手数料を差し引いていないかを確認します。
契約書だけでなく、会計・振込システムの設定まで確認することが大切です。
3.追加作業と価格変更のルールを決める
修正、やり直し、仕様変更、短納期対応などについて、追加費用が発生する条件を事前に決めておきましょう。
「必要になったら後で話し合う」のではなく、発注段階でルールを明確にすることが、トラブル防止につながります。
まとめ
2026年1月に施行された取適法では、従来の下請法から名称が変わっただけでなく、取引適正化に向けた規制が強化されています。
広告業界への集中調査では、口頭発注、支払遅延、無償のやり直し、知的財産権の無償譲渡などが問題となり、広告会社に71件の指導が行われました。
また、改正により手形払いが禁止され、振込手数料を受注者へ負担させることも明確に禁止されています。
発注する企業にとっては、「昔からの慣行」で続けている取引条件を見直す機会です。
受注する企業にとっては、不当な条件を当然のものとして受け入れず、適正な取引を求めるための後ろ盾になります。
まずは、自社の契約書、発注方法、支払条件、追加作業の取扱いを点検することから始めてみてはいかがでしょうか。
今回の改正は、単に法律の名称が変わっただけではありません。
規制の対象や禁止行為が追加され、発注者と受注者の取引を、より適正なものにするためのルールが強化されています。
2026年6月29日には、公正取引委員会と中小企業庁が、広告業界を対象に実施した集中調査の結果を公表しました。
その結果、広告会社に対して71件の指導が行われています。
今回の調査対象は広告業界でしたが、取適法は製造業、建設業、運送業、システム開発、デザイン、動画制作など、さまざまな業種の委託取引に関係します。
発注する企業は、知らないうちに違反していないかを確認する必要があります。
一方、受注する中小企業にとっては、不当な取引条件から自社を守るために知っておきたい法律です。
取適法とは?
取適法は、発注者と受注者の取引を適正化し、立場の弱い中小の受注事業者を不当な扱いから守るための法律です。
法律上、発注する側は「委託事業者」、受注する側は「中小受託事業者」と呼ばれます。
対象となる取引では、発注者に対して主に次のような義務が課されます。
発注内容を書面や電子データで明示する
取引に関する書類を作成し、保存する
受領日から原則60日以内に代金を支払う
不当な減額や買いたたきを行わない
受注者に責任がないのに、無償でやり直しをさせない
「長年この方法で取引している」「業界では一般的な慣習である」という理由だけでは、問題のある取引を正当化できません。
広告業界への集中調査で71件の指導
公正取引委員会と中小企業庁は、2026年2月から広告業界における取適法違反の疑いがある取引について、集中調査を実施しました。
調査対象となったのは、新聞、雑誌、テレビ、インターネット、交通広告、屋外広告などに関する制作委託です。
一般的な広告取引では、広告主から依頼を受けた広告会社が、デザイン会社、映像制作会社、印刷会社などへ業務を委託します。
こうした多層的な取引構造の中で、口頭発注や支払遅延、無償修正などの問題が発生していました。
問題となった行為① 発注内容を書面で示さない
取適法の対象となる取引では、発注時に取引条件を明示する必要があります。
しかし、広告業界では「口頭で発注するのが慣習」という理由で、発注書を交付していないケースが確認されました。
問題となるのは、次のような取引です。
電話や口頭だけで制作を依頼する
金額を決めずに作業を開始させる
納期や修正回数を明確にしない
著作権の帰属を決めない
作業開始後に発注書を発行する
発注日を実際より前の日付にして書類を作る
発注書には、業務内容、納期、代金、支払期日、支払方法などを記載する必要があります。
制作や開発を伴う取引では、修正範囲や知的財産権の取扱いも明確にしておくことが大切です。
問題となった行為② 受領から60日を超える支払い
取適法では、発注者は給付を受けた日から60日以内のできるだけ短い期間内に、支払期日を定めなければなりません。
例えば、「月末締め・翌々月末払い」という条件では、納品日によって60日を超える可能性があります。
また、請求書の提出が遅れたことを理由に支払いを翌月へ回したとしても、原則として受領日から60日以内という基準は変わりません。
自社の締日と支払日だけではなく、実際の納品日から支払日までの日数を確認する必要があります。
問題となった行為③ 無償で修正ややり直しをさせる
広告やデザイン、動画制作では、一定の修正が発生すること自体は珍しくありません。
しかし、当初の発注内容を超える変更や、発注者側の都合によるやり直しを無償で求めると、取適法上の問題になる可能性があります。
例えば、次のようなケースです。
当初と異なる内容への大幅変更を無償で依頼する
修正回数を決めず、何度もやり直しを求める
発注後に案件を取り消し、それまでの作業費を支払わない
発注者の確認不足による修正を受注者に負担させる
短納期での再制作を追加料金なしで求める
発注時に、基本料金に含まれる修正回数や、追加料金が発生する条件を明確にしておくことが重要です。
問題となった行為④ 知的財産権の無償譲渡
広告制作、システム開発、デザイン、動画制作などでは、著作権をはじめとする知的財産権が発生します。
しかし、発注金額に知的財産権の譲渡対価が含まれていないにもかかわらず、受注者へ権利の無償譲渡を求めるケースがあります。
また、コンペに参加した企業へ試作品やデザイン案を無償で制作させ、不採用となったことを理由に費用を支払わない取引も問題となり得ます。
著作権を発注者へ譲渡する場合には、その範囲と対価を契約書や発注書で明確にする必要があります。
改正で禁止された「手形払い」
取適法では、中小受託事業者への代金を手形で支払うことが禁止されました。
また、手形の代わりに電子記録債権やファクタリングを利用していても、支払期日までに手数料を含む代金の満額を現金として受け取ることが困難な支払方法は認められません。
「紙の手形を電子化したから問題ない」ということではありません。
受注者が期日までに代金の満額を受け取れるかどうかが重要です。
振込手数料を受注者に負担させることも禁止
代金を銀行振込で支払う際に、振込手数料を差し引いて入金する慣行も見直す必要があります。
取適法では、振込手数料を中小受託事業者へ負担させることは、代金の減額として禁止されています。
これは、受注者との間で事前に合意していた場合も同様です。
数百円の手数料でも、代金から差し引けば問題となる可能性があります。
経理システムや振込データの設定に、手数料を相手負担とする処理が残っていないか確認しておきましょう。
広告業界だけの問題ではない
今回、集中調査の対象となったのは広告業界ですが、問題となった行為は他の業種でも起こり得ます。
例えば、次のような取引です。
製造業者への部品加工の委託
運送会社への配送業務の委託
システム会社への開発委託
デザイン会社への制作委託
清掃会社やメンテナンス会社への業務委託
フリーランスへの動画・記事制作の委託
行政は、自動車、物流、映像制作など、さまざまな業界の取引実態を確認しています。
「自社の業界は対象にならない」と考えるのではなく、発注または受注を行っている企業は、自社の取引条件を確認する必要があります。
発注する企業が確認したいポイント
発注側の企業は、次の点を確認してみましょう。
発注時に書面を交付しているか
業務内容、代金、納期、支払期日、支払方法などを、作業開始前に明示しているかを確認します。
60日以内に支払っているか
締日基準ではなく、実際の納品日や受領日から支払日までの日数を確認しましょう。
手形などを使用していないか
紙の手形だけでなく、期日までに満額を現金化できない電子記録債権なども確認が必要です。
振込手数料を差し引いていないか
経理上の設定や取引基本契約書に、受注者負担の記載が残っていないかを確認します。
追加作業を無償で求めていないか
仕様変更、追加修正、短納期対応などについて、適切な追加費用を支払っているか見直しましょう。
受注する企業も泣き寝入りする必要はない
取適法は、受注する中小企業が不当な取引から自社を守るための法律でもあります。
次のような取引に心当たりがある場合は、取引条件を確認する必要があります。
発注書を交付してもらえない
代金から一方的に金額を差し引かれる
振込手数料を負担させられている
値上げを申し出ても協議してもらえない
発注後の変更や修正を無償で求められる
著作権を無償で譲渡させられる
受領後60日を超えても代金が支払われない
問題を感じた場合は、記録を残しておくことが重要です。
発注書、契約書、メール、チャット、見積書、請求書、修正指示などを保存しておきましょう。
公正取引委員会、中小企業庁、取引かけこみ寺などの相談窓口を利用することも選択肢となります。
今から取り組みたい3つの対策
1.契約書・発注書を見直す
発注内容、数量、金額、納期、支払条件、修正条件、知的財産権の取扱いが明確になっているか確認しましょう。
口頭発注が残っている場合は、メールや発注システムを含めて書面化する必要があります。
2.支払条件と経理処理を確認する
受領から60日以内に支払っているか、手形や問題のある電子記録債権を使っていないか、振込手数料を差し引いていないかを確認します。
契約書だけでなく、会計・振込システムの設定まで確認することが大切です。
3.追加作業と価格変更のルールを決める
修正、やり直し、仕様変更、短納期対応などについて、追加費用が発生する条件を事前に決めておきましょう。
「必要になったら後で話し合う」のではなく、発注段階でルールを明確にすることが、トラブル防止につながります。
まとめ
2026年1月に施行された取適法では、従来の下請法から名称が変わっただけでなく、取引適正化に向けた規制が強化されています。
広告業界への集中調査では、口頭発注、支払遅延、無償のやり直し、知的財産権の無償譲渡などが問題となり、広告会社に71件の指導が行われました。
また、改正により手形払いが禁止され、振込手数料を受注者へ負担させることも明確に禁止されています。
発注する企業にとっては、「昔からの慣行」で続けている取引条件を見直す機会です。
受注する企業にとっては、不当な条件を当然のものとして受け入れず、適正な取引を求めるための後ろ盾になります。
まずは、自社の契約書、発注方法、支払条件、追加作業の取扱いを点検することから始めてみてはいかがでしょうか。